与信限度額の計算方法と決め方は?

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与信限度額(与信枠)とは

与信限度額とは、未回収リスクを避けるために取引先ごとに設定する売掛債権や債権残高の上限額です。言い換えると、商品やサービスを提供してから代金を回収するまでの間に、「最大いくらまで取引を認めるか」を示す基準です。

与信取引では、代金を受け取る前に商品やサービスを提供するため、取引先が倒産した場合に売掛金等を回収できなくなる可能性があります。そのため、あらかじめ取引先ごとに債権額の上限を定めておくことで、万が一の場合に生じる損失を一定の範囲内に抑えることができます。

与信限度額は、月末時点だけでなく、月中を含むいかなる時点でも超えないように管理することが原則です。また、単に取引に必要な金額を設定するのではなく、取引先の信用力や取引規模、自社の財務体力などを踏まえて決定します。

  • POINT
  • 与信限度額は、取引先ごとに設定する債権残高の上限額であり、自社が許容する損失の最大額でもあります。

与信限度額制度とは

与信限度額制度とは、取引先ごとに与信限度額を設定し、実際の債権残高がその範囲内に収まっているかを継続的に管理する仕組みです。

取引開始時に限度額を決めるだけではなく、売買契約や出荷の状況、債権残高の推移、入金状況などを確認しながら、設定した限度額を遵守できているかを管理します。これにより、取引先の信用状態が悪化した場合でも、損失が必要以上に拡大することを防ぎやすくなります。

また、与信限度額制度は、営業部門が求める収益機会と、管理部門が抑えたい貸倒れリスクを調整する役割も担います。取引を全面的に断るのではなく、限度額を抑える、決裁者を変更する、担保を取得するなど、リスクに応じて取引条件を調整できます。

与信限度額は、自社が受容する損失の最大額でもあります。そのため、原則として超過させないことに加え、一定の水準に達した時点や超過時にアラートを出すなど、客観的な基準と社内共通のルールを定めて運用することが重要です。

与信限度額は、取引開始時の判断だけでなく、その後の債権管理や取引継続可否にまで関わる、与信管理プロセス全体の重要な役割を担います。

図1

与信限度額が必要な理由

企業が与信取引を行う以上、代金を回収できないリスクを完全にゼロにすることはできません。重要なのは、どの程度までリスクを受け入れるかをあらかじめ決め、万が一の場合でも自社の経営に重大な影響が及ばない範囲に抑えることです。
一方で、リスクを恐れて取引を過度に制限すると、信用力の高い取引先との取引拡大や新たな商機を逃す可能性があります。
与信限度額は、貸倒れを防ぐためだけの仕組みではありません。取引先の信用力や自社の財務体力に応じて、安全性と収益機会のバランスを取りながら取引するための必要な基準です。

与信限度額を設定してないとどうなるか?

与信限度額を設定していない、または実態に合わない金額のまま運用していると、企業の収益性や成長性、管理体制に悪影響を及ぼす可能性があります。

過大な取引による損失の拡大
明確な根拠がないまま取引を増やすと、取引先が倒産した際の貸倒損失も大きくなります。一度の焦げ付きによって、それまでに積み上げてきた利益が失われる可能性があります。

過度な取引制限による機会損失
限度額が低すぎる場合は、信用力が向上した取引先からの増枠依頼や大型案件に対応できず、取引機会を他社に奪われる可能性があります。

担当者任せによる判断のばらつき
客観的なルールがなければ、取引額が担当者の経験や勘、過去の慣習で決まりやすくなります。取引先の変化を見逃したり、担当者の交代によって管理水準が変わったりする原因になります。

与信限度額を設定(ルール化)するメリット

与信限度額を客観的な基準に基づいてルール化することで、取引判断を迅速かつ安定的に行いやすくなります。主なメリットは次の4つです。

①意思決定を迅速化できる
あらかじめ承認基準や決裁権限を定めておくことで、基準内の案件をスムーズに処理でき、営業機会を逃しにくくなります。

②営業部門と管理部門の認識をそろえられる
限度額の根拠が明確になるため、「なぜこの金額なのか」を共通の基準で説明できます。部門間の調整や合意形成もしやすくなります。

③重点的に管理すべき取引先が分かる
すべての取引先を一律に管理するのではなく、信用力や取引額に応じて、本当に注意が必要な取引先へ管理リソースを集中できます。

④担当者が変わっても管理水準を保てる
判断基準を文書化することで、経験や勘への依存を減らし、担当者の異動や交代があっても一定の品質で運用できます。

図2

与信限度額の考え方

与信限度額の決め方には、大きく2つの考え方があります。

1つ目は、取引先の格付や信用状態に応じて、与信限度額や取引シェアの上限を設定し、安全な範囲内で取引する考え方です。

2つ目は、実際の取引に必要な金額を基準に、必要額を設定する考え方です。

与信限度額を設定する際は、「安全かつ適正で、必要な範囲内であること」が原則です。1つの方法だけで決めるのではなく、複数の考え方を踏まえながら、自社の運用実態に合った基準を設けることが重要です。

【一般的な与信限度額設定方法】
設定方法 利用法 問題点
正味財産分割法 取引先の正味財産(純資産)を基準に決める方法 大規模企業では正味財産が大きくなるため、限度額が過大になるおそれがあります。一方、優良企業でも小規模な企業では、過小な限度額になる可能性があります。
月商1割法 取引先の月間売上高の10%を限度額とする方法 大規模企業では限度額が過大になり、小規模企業では過小になるおそれがあります。また、業種や業態、会計処理方法の違いによって売上高が異なるため、公平な尺度にならない場合があります。
段階的増枠法 新規取引先などに対して、当初は低い限度額を設定し、取引実績に応じて段階的に増額する方法 最初の限度額をどのように決めるかが課題です。また、減額されることを見越して、当初から過大な限度額が申請される可能性があります。
同業企業比較法 取引先の中から標準となる企業を選び、その限度額と比較して設定する方法 取引内容や取引期間、条件などの違いにより、比較対象として適さない場合があります。

どの設定方法にも長所と注意点があります。特定の方法だけで機械的に決めるのではなく、取引先の信用力や取引条件、自社の財務体力などを総合的に確認することが大切です。

与信限度額の算出と与信枠の決め方

与信限度額の設定では、「取引に必要な金額であること」と「自社にとって安全な範囲であること」の両方を満たす必要があります。

限度額を算出する際は、月間の取引見込み額だけでなく、代金を回収するまでの期間、取引先の信用状態、自社の財務体力、取引先に対する自社の販売シェアなどを確認します。

また、計算上は安全な上限内であっても、実際の取引額に比べて大きすぎる限度額を設定すると、売上や債権残高が急増しても異常を検知できない場合があります。安全な上限と、実際の取引に必要な金額を照らし合わせ、より慎重な水準で決定することが基本です。

与信限度額の算出には以下のチェックポイントを必ず確認しましょう。

【与信限度額の算出のためのチェックポイント】
項目 チェックポイント
取引の内容 ・取引先の規模や実績と比べ、取引額が不自然に大きくないか
・取引先の業種や取引実態から見て不自然な取引ではないか
・取引形態や販路、取引関係者に不自然な点がないか
・無理のない取引計画か
・取引の実行状況を自社が確認できるか
・自社の販売戦略に沿った取引か
・取引条件は妥当で、適正な利益を確保できるか
・設定する限度額が取引数量や条件から見て妥当か
取引先の信用状態 ・限度額が取引先の信用状態から見て妥当か
・これまでの取引は順調に履行されているか
・将来の信用状態の変化も考慮しているか
・信用状態に変化が生じた際、減額や取引中止が必要ではないか
・取引先における自社の取引シェアが高すぎないか
・親会社や主力銀行などとの関係に問題がないか

与信限度額の計算式

取引に必要な与信限度額は、月間の販売見込み額と、代金を回収するまでの期間をもとに算出します。

基本的な計算式
与信限度額 = 月間販売数量 × 単価 × 回収期間(月数)

月間販売数量に単価を掛けて月間販売額を算出し、それに回収サイトを掛けることで、平均的な売掛債権残高を求めます。その金額が、取引上必要となる与信限度額の目安です。

ただし、実務ではこの計算結果をそのまま設定するのではなく、季節変動や売上の増減、将来の債権残高の推移も考慮し、必要に応じて一定の余裕を持たせます。

また、回収サイトを確認する際は、手形期間だけでなく、商品を納品してから売掛金が手形へ切り替わるまでの期間も含めて考える必要があります。
最終的な与信限度額は、計算式で求めた「取引に必要な金額」と、取引先の信用力や自社の財務体力などから求めた「安全な上限額」を照らし合わせて決定します。

与信限度額を設定する上でのポイント

計算式で求めた金額をそのまま与信限度額にするのではなく、取引条件や自社・取引先双方の状況を確認し、必要に応じて調整します。
特に、次の5つのポイントを確認することが重要です。

回収条件の適正性

回収サイトは、手形期間だけでなく、商品の納品から現金回収までに実際に必要となる期間を確認して設定します。
回収期間を必要以上に長くすると、その分だけ取引先へ資金を提供している状態となり、取引先が他の用途に資金を流用したり、自社への支払いが滞ったりするリスクが高まります。
業界の慣習だけに従うのではなく、個々の取引に応じた適正な回収条件を設定することが必要です。

財務体力に応じた上限設定

取引先が倒産した場合でも、自社の経営に重大な影響を与えない範囲で限度額を設定します。
自社の純資産や利益水準などを踏まえ、万が一貸倒れが発生しても、自社の経営基盤が大きく揺らがない上限を定めておくことが重要です。

取引シェアの勘案

自社の債権額が、取引先の買掛債務などに占める割合が高すぎる場合、取引先の経営が悪化した際に取引を縮小しにくくなります。
取引シェアが高い状態で取引を続ける場合は、取引先の信用力や規模を踏まえながら、販売量や債権残高を継続的に管理する必要があります。
取引先の買掛債務などに占める自社の割合を確認し、格付や信用状態に応じて許容できる上限を定めることが重要です。

取引上の必要額での設定

安全な上限額が大きくても、実際の取引に必要な金額を大幅に上回る限度額を設定することは適切ではありません。
限度額が大きすぎると、債権残高が通常の2倍、3倍に増えても限度額を超過せず、異常の発見が遅れる可能性があります。
まず取引上必要となる金額を算出し、その金額が安全な上限内に収まっているかを確認した上で限度額を決定します。

与信限度額の設定と決裁権限

限度額は、営業担当者など特定の個人だけで決めるのではなく、信用力や金額に応じて決裁者を定める必要があります。
信用状態が低い取引先や、大口の与信限度額を設定する場合は、より上位の決裁者による判断を必要とするなど、リスクに応じた決裁権限を設けます。
また、通常の安全基準を超える限度額が必要な場合には、担保の取得や取引条件の変更、継続的なモニタリングなどの対策を講じた上で、取引可否を判断するルールが必要です。

与信限度額制度を形骸化させないための「運用のコツ」

与信限度額は、一度設定すれば終わりではありません。
取引先の経営状態や取引額、自社のリスク許容度は常に変化します。制度を実際のリスク管理に機能させるためには、設定後の管理方法まであらかじめルール化することが必要です。

1.与信限度額に有効期限を設け、定期的に見直す
すべての与信限度額に有効期限を設け、年1回など一定の周期で再審査します。
また、格付の低下、入金遅延、取引額の急増、代表者変更など、信用状態に変化があった場合には、有効期限の到来前でも限度額を見直します。
見直しの対象となる条件と、見直しの実施時期をあらかじめ決めておくことで、古い限度額がそのまま使われ続けることを防げます。

2.与信限度額を超過した場合の対応を決めておく
限度額を超過してから対応を検討するのではなく、限度額に近づいた段階から行う対応を決めておきます。
例えば、次のような段階的なルールが考えられます。
・限度額の80%到達時:営業担当者へ通知
・限度額の90%到達時:管理部門へ通知し、取引内容を確認
・限度額超過時:追加出荷の停止または上位決裁者の承認を取得
超過の原因や今後の取引見込みを確認し、増枠、取引縮小、回収条件の変更など、具体的な対応方法を定めておくことが重要です。

3.ガイドラインを文書化し、社内共通ルールにする
与信限度額の算出方法、申請・決裁権限、見直し時期、例外処理、超過時の対応を文書化します。
営業、管理、経理などの関係部門が同じ基準を共有することで、担当者の経験や勘に依存しない運用ができます。
また、例外的な増枠を認める場合も、理由、承認者、有効期限などを記録し、特例処理が常態化しないよう管理します。

さらに、債権残高の更新やアラート通知をシステム化することで、確認漏れや対応の遅れを防ぎやすくなります。

まとめ:適切な与信限度額の設定と継続的な運用が重要

与信限度額は、取引先ごとの債権残高の上限額であり、自社がどこまでリスクを受け入れるかを示す重要な基準です。
適切な与信限度額を設定するには、取引に必要な金額だけでなく、取引先の信用力、自社の財務体力、回収条件、取引シェアなどを総合的に確認する必要があります。

また、与信限度額は一度決めて終わりではありません。取引先の状況や取引実績に応じて定期的に見直し、限度額への接近や超過を早期に把握できる仕組みを整えることが重要です。
客観的な基準を社内で共有し、設定・申請・審議・決裁・管理・見直しまでを一貫して運用することで、貸倒れリスクの抑制と取引機会の確保を両立できます。

与信限度額は、設定するだけではなく、継続的に管理・見直すことで初めて実効性を発揮します。

与信限度額の設定と継続的な運用は、会社の規模や組織体制、取引内容によって適切な設計が異なります。
現在の運用に不安がある場合は、与信管理の専門家による運用設計支援を活用することも有効です。

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