内部統制を強化するための与信管理

  1. TOP
  2. 知る・学ぶ
  3. 内部統制対策としての与信管理

企業経営において、取引先の倒産や支払遅延、貸倒れの発生は、いずれも突然起こり得る信用リスクであり、経営に大きな影響を及ぼします。売上が計上されていても、実際に回収できなければ資金繰りを圧迫し、経営の安定性や企業の信用に深刻な影響を与えかねません。

こうした信用リスクを未然に防ぎ、健全な経営とガバナンスを維持するために欠かせないのが「内部統制」の強化です。なかでも与信管理は、取引先との関係性や売上に大きく関わる一方で、判断を誤ると損失に直結しやすい領域であり、内部統制上も極めて重要な位置づけにあります。

ここでは、具体的な与信管理手法に踏み込む前段として、そもそも内部統制とは何か、そして、内部統制の観点から見た与信管理の基本的な位置づけ、与信管理によって防ぐことのできるリスクとその対応策を整理します。

内部統制とは?企業経営に欠かせない「守りの仕組み」

内部統制とは、基本的に、(1)業務の有効性及び効率性、(2)財務報告の信頼性、(3)事業活動に関わる法令等の遵守、(4)資産の保全、という4つの目的が達成されている「合理的な保証」を得るために、業務に組み込まれ、組織内の業務に携わる一人ひとりによって遂行される「一連の動的なプロセス」を指します。

「合理的な保証」とは、内部統制には固有の限界(属人化によるミスやコスト制約等)があるため「絶対的な保証」ではないものの、目的が達成されないリスクを一定の水準以下に抑えている状態を指します。100%ではないものの、その枠組みの中で最大限の信頼性を確保しようとするのが内部統制の考え方です。

そして、内部統制が有効に機能しているかを判断するための「規準」となるのが、(1)統制環境、(2)リスクの評価と対応、(3)統制活動、(4)情報と伝達、(5)モニタリング、(6)ITへの対応、という6つの基本的要素です。これらの要素が適切に整備・運用されることで、初めて4つの目的達成に向けた「合理的な保証」が得られます。

企業はこれらの要素を通じてリスクを識別・分析し、適切なルール(方針及び手続)を整え、日常的な監視(モニタリング)を通じて継続的に体制を見直していきます。その結果、問題が起きてから対処する対症療法ではなく、「問題の発生そのものを抑える」予防的な体制が構築されます。

つまり内部統制とは、企業の健全な持続と発展を支えるための「守りの基盤」です。この守りが機能してこそ、企業は社会的信用を維持し、安心して事業活動を拡大させることができます。

内部統制における与信管理の位置づけ

そして、内部統制において、「資産の保全」や「財務報告の信頼性」を確保するために、売掛金等の資産を守り、適切に管理する役割を担っているのが与信管理です。

与信管理とは、取引先の信用力を見極め、「どこまで・いくらまで・どのような条件で」取引するかを管理する仕組みです。企業の売上や取引の拡大に直結する一方で、未回収や貸倒れといったリスクも内包しているため、適切な対応が欠かせません。

こうした背景から、内部統制の観点から見ると、与信管理は単なる代金回収のチェックではなく、「会社の資産を失うリスクを適切にコントロールし、正しい財務状況を社内外に報告するための不可欠なプロセス」としての役割を担っています。

取引先の信用リスクを評価し、取引条件や限度額を設定・運用する取り組みは、内部統制における「リスク評価」や「統制活動」の考え方に沿ったものといえます。

与信管理が防ぐ主なリスクと内部統制上の対応策

ここからは、与信管理の現場で実際に起こりやすい4つの代表的なリスクを取り上げます。
これらのリスクは、担当者の判断ミスだけで生じるものではなく、ルールが曖昧なまま運用されていたり、チェック体制が機能していなかったりと、仕組みとしての不備が原因になっているケースがほとんどです。
それぞれのリスクに対する対策と、その重要性を内部統制の観点から整理していきます。

リスク①:支払能力の低い取引先との取引

取引先の支払能力を超えた取引は、商品やサービスを提供しても代金を回収できなくなる「回収不能リスク」を高めます。
特に新規取引先や信用力の低い取引先との取引では、事前に信用状況を確認し、支払能力を見極めることが不可欠です。

そのため、まずは与信管理規程などを通じて判断基準を明確にし、どのような場合に取引を認めるのか、どこまでリスクを許容するのかといったルールを定めます。そのうえで、取引開始前には信用調査を行い、財務情報や取引実態など、与信判断の基礎となる情報を社内ルールや基準に当てはめることで、担当者の主観に依存しない、統一的な判断が可能となります。

これらの取引先チェックは、内部統制における「リスク評価と対応」にあたり、取引先の倒産や支払遅延といったリスクを事前に識別・分析するための取り組みです。また、判断基準を定めて運用することは「統制活動」としても機能し、不適切な取引を未然に防ぐ役割を果たします。

リスク②:実体不明企業・反社会的勢力との取引

実体の確認が不十分な企業や、反社会的勢力との取引は、企業の信用を大きく損なう「法的リスク・レピュテーションリスク」を高めます。
そういった取引先と一度関係を持ってしまうと、社会的評価の低下や取引停止など、事業継続に深刻な影響を及ぼす可能性があります。

そのため、取引先の実在性や背景を確認するためのルールを定め、どのような情報を確認するのか、どのタイミングでチェックを行うのかといった基準を明確にします。そのうえで、登記簿などの公文書の確認や信用調査会社の調査レポート分析、反社チェックツールの活用などを通じて、取引先の実態やリスクを把握します。
さらに、こうした確認結果を踏まえたうえで、取引条件や双方の権利義務を明確にした契約書を締結することで、後のトラブルを未然に防止します。

こうした実体確認や反社チェックは、「統制環境」における組織の誠実性や倫理観に関わるとともに、反社会的勢力との関与という重大なリスクを事前に見極める「リスク評価と対応」、不適切な取引を防ぐための手続きや承認を定める「統制活動」、必要な情報を適切に共有する「情報と伝達」など、複数の内部統制要素を通じて業務に組み込むべきものといえます。

リスク③:与信限度を超えた取引の拡大

与信限度額を超えた取引の拡大は、特定の取引先への依存度が高まる「取引集中リスク」を引き起こすおそれがあります。
売上の拡大を優先するあまり、取引が一部の取引先に偏ってしまうと、万が一その取引先に経営不振や支払遅延などの問題が生じた場合に、自社の経営へ一気に影響が波及する可能性があります。

そのため、まずは取引先ごとの取引方針やリスク許容の考え方を明確にし、特定の取引先に過度に依存しないための与信限度額の基準を定めます。
そのうえで、受注状況や売掛残高、取引先の信用力を継続的にモニタリングし、取引の偏りや経営状況の変化が生じていないかを確認します。

また、取引金額や構成比の状況を定期的に見直し、特定の取引先への依存度が高まりすぎていないかをチェックすることも欠かせません。必要に応じて取引条件の見直しや取引先の分散を図ることで、リスクの集中を未然に防ぐことができます。

こうした与信限度額の設定と運用は、内部統制における「リスク評価と対応」として、取引集中や回収不能といったリスクを事前に識別・分析し、取引の承認や制限といった「統制活動」を通じてこれらのリスクをコントロールする役割を果たします

リスク④:与信ルールが形骸化するリスク

一方で、与信限度額を設定していても、実際の運用でルールが守られていなければ意味がありません。
与信管理が形だけのものになってしまうと、本来チェックされるべきリスクが見逃され、回収不能リスクや取引集中リスクなどを防ぐことができなくなる「統制機能不全リスク」を高めてしまいます。

そのため、適切な与信限度額を設定するだけでなく、設定されたルールが日常業務の中で自然に守られる仕組みを構築することが不可欠です。まずは、与信限度額による運用が会社としての意思決定であることを明確にし、その運用方法を従業員に周知・徹底します。

これを実現するためには、単に与信管理規程を定めるだけでは不十分です。与信管理の具体的な運用方法を示したマニュアルを整備し、研修などを通じて教育を行うことで、ルールが「知っているもの」ではなく「自然に守るもの」として定着していきます。

また、営業判断に偏らないよう複数の視点でチェックできる体制を整えることや、取引先ごとの債権残高が与信限度額を超過しているかどうか適時に把握できる仕組みを用意しておくことも、ルールを実効性あるものにするうえで重要です。これにより、判断の偏りやリスクの見逃しを防ぐことができます。

こうしたルールの整備は、内部統制における「統制活動」にあたり、経営者の方針や意思決定を具体的な業務手続として形にするものです。さらに、教育や意識づけを通じてルールを組織に浸透させ、自然に守られる状態をつくる取り組みは、「統制環境」として組織の気風や意識に働きかける役割を果たします。ルール(統制活動)をつくるだけでなく、それが当たり前に守られる風土(統制環境)を育てることが、内部統制を実効性あるものにするための土台となります。

まとめ

与信管理は、単に取引開始時に信用力をチェックして終わるものではありません。
「一度判断して終わり」の作業ではなく、継続的にリスクを把握し、取引条件を見直し、管理し続けていく仕組みである必要があります。

内部統制が「4つの目的」を達成しようとする究極の理由は、「組織の存続及び発展」を図り、社会的な信用を維持・向上させるためです。
そして、その考え方を取引の現場で実際に機能させていくための基盤こそが、与信管理です。

ここまで、
支払能力リスクを管理し、回収不能リスクを防ぐこと
不適切な取引先を排除し、法的・レピュテーションリスクを回避すること
取引の偏りをコントロールし、取引集中リスクを防ぐこと
ルールを形骸化させず、統制機能不全を防ぐ運用体制を整えること

といった観点から、内部統制における与信管理の役割を整理してきました。

これらを一時的な対応で終わらせるのではなく、実務の中で継続的に運用していくことが、内部統制を強化し、企業の持続的な成長を支えることにつながります。

与信管理とは、「取引を止めるためのルール」ではなく、「安心して取引を続けるための仕組み」です。 内部統制の考え方を現場に根づかせ、企業の信用と資産を守り続けるための基盤として、与信管理をどう設計し、どう運用していくか。 その姿勢こそが、これからの企業経営にますます問われていくでしょう。

与信管理を「仕組み」として定着させるには

今回解説した
「信用調査の徹底」
「反社チェック・コンプライアンスチェック」
「与信限度管理」
「牽制機能の確保」
といった考え方は、ルールとして存在するだけでは意味がありません。
現場の業務の中で“当たり前に回る仕組み”として機能してこそ、はじめて価値を発揮します。

与信管理システムなどのITの活用は、単なる事務作業のスピードアップにとどまりません。
内部統制の基本的要素である「リスクの評価と対応」や「統制活動」を半自動化・可視化することによって、与信管理を「個人の経験や勘」に頼るものから、「組織的で精度の高い科学的な仕組み」へと進化させる役割を果たすことができます。

その具体的な方法については、以下のコラムで詳しく解説しています。
▼ 続きを読む:与信管理の属人化を防ぐには?継続モニタリングで内部統制を強化する方法

資料請求・お問い合わせはこちら

page top