与信管理の重要性
営業部門でよく起こる与信管理上の問題としては、「与信リスクに対する能力や意識のばらつき」、「受注を優先してしまう」、「基準が分かりにくく運用できない」、「与信限度額の超過や限度額未設定が発生」、「回収遅延や事故に対する見直しが不十分」などが挙げられます。
一方で、管理部門の方では、「判断が俗人的になる」、「営業部と審査部の対立が発生する」、「営業や売上の機会損失が発生する」、「リスクの定量的な把握が不十分」といった様々な問題点が生じやすいです。
1. 貸倒れはどの企業も抱えている経営リスクの一つです。
取引先が倒産すると未回収の売上代金が回収できなくなることにより「貸倒れ」(「焦付き」ともいいます)という損害が発生します。貸倒れが発生すると、それまで企業努力で積み上げてきた利益が損なわれます。
仮に経常利益率が10%の取引において1,000万円の貸倒れが発生したとすると、その損失を穴埋めするには、
1,000万円 ÷ 10% = 1億円
の売上が必要となり、その負担は膨大なものとなります。
また自社の業績・財務内容を悪化させるだけでなく、管理の甘さから対外的な信用も失ってしまうこととなります。
2. 回収が困難な法的倒産が増えています。
1998(平成10)年に16.1%であった法的倒産(破産・会社更生・民事再生・特別清算)の割合は2012(平成24)年には過去最高の82.7%となり(東京商工リサーチ調べ)、明らかに倒産形態の主流が変化しています。
「早い者勝ち」や「抜け駆け」を許さない法的倒産は、私的倒産と比べ配当率が非常に低くなる傾向にあり、事前の予防対策(=与信管理)の重要性が増しています。
3. 「隠れ倒産」が増えています。
事務コスト削減等を理由に手形を発行する企業が減少しつづけており、2012(平成24)年の手形交換高は20年前の1992(平成4)年の約10分の1、手形発行枚数は5分の1近くにまで減少しています。手形を振り出さなければ支払いが遅延しても「不渡り」となりません。
これに伴い倒産事由の多くの割合を占めていた銀行取引停止処分の件数が大きく減少しており、統計上は倒産件数にカウントされない「隠れ倒産」が増加していることが推測されます。
4. 中小企業金融円滑化法が終了し、倒産増加が懸念されています。
リーマン・ショックを発端とした世界同時不況に対して中小企業の資金繰り支援のため、2009年12月に施行された中小企業金融円滑化法は2度の延長の末、2013年3月末で期限切れとなりました。
40万社を超える企業が利用申請を行ったとみられ、これは普通法人260万社と個人事業者(消費税納税申告件数)133万社(国税庁)を合わせた企業数393万社の1割を超える数となります。このうち2~3割は同法により延命された倒産予備軍と考えられ、政府支援により抑制されていた倒産が一気に噴出する懸念があります。
5. 景気回復の時期こそ倒産が増加する懸念があります。
現政権のアベノミクスと称される経済改革により景気回復が期待されています。しかし景気が回復し売上が増加すると、売掛金・在庫と買掛金の決済差である運転資金の需要が高まることとなります。また従業員を増やしたり、設備投資を行うことで追加の資金需要も出てきます。この需要に対し、資金調達が間に合わなければ資金不足となり、決算書上は黒字なのに倒産するといった「黒字倒産」が頻発することが懸念されます。
資金が潤沢にあれば別ですが、長期間の不景気により資金は底をついた状態で繰り回していたところに資金需要が発生すると対応できない会社も出てきます。取引先をよく監視する体制整備が急務となっています。
6. 内部統制システムの構築義務化/金融商品会計基準変更により第三者に説明できる与信管理体制の構築が不可欠になっています。
金融商品取引法では、財務報告の信頼性を高めるため、上場企業に対して財務報告に関する内部統制構築を求めております。不正会計や粉飾決算の防止を目的に、取引開始から会計処理に至るプロセスについて業務フローを見直し、マニュアル化することが必要となります。その上でリスクを回避する与信管理体制の構築は不可欠です。
さらに2008年改正の金融商品会計基準において、金融商品の状況や時価等に関する事項の開示の充実が図られた結果、営業債権(売掛金・受取手形)も金融商品としてリスク管理体制を注記として記載する義務があります。
また会社法では大会社(資本金5億円以上または負債200億円以上)の取締役に執行業務及び業務全般に関して内部統制の構築を求めています。業務全般にわたるリスク分析をしたうえで、リスクを回避する仕組みが必要となっております。与信管理は与信リスクの回避だけでなく、社外との取引関係の監視を行う意味で不祥事防止の役割を担っており、内部統制の確立には不可欠な機能といえます。
リスク管理や不祥事回避は大企業だけの問題ではなく、未上場企業や中小会社ほどそのダメージが致命傷になる危険性があります。内部統制の構築を積極的に推進すべきでしょう。
7. IPOにはリスク管理体制が不可欠です
IPO(株式上場)の準備にはリスク管理を含む社内管理体制の整備、内部統制の構築・運用、申請書類の整備などが必要です。その中で社内体制の整備として、与信管理体制や反社会的勢力排除体制の整備が求められます。
長期間にわたる膨大な業務がある中、効率的に準備を進めるためには、与信管理、反社会的勢力の排除にとって懸念のある先をアウトソーシングによって洗い出し、いち早く管理体制を構築することが有効となります。