「中国半導体事業 2024年業界速報」を発表 ~「中国製造2025」の進捗と、日本企業との関わりをみる~
「中国半導体事業 2024年業界速報」を発表
~「中国製造2025」の進捗と、日本企業との関わりをみる~
法人会員向けに与信管理クラウドサービスを提供するリスクモンスター株式会社(本社:東京都中央区、代表取締役社長:藤本太一、以下リスモン)は、「中国半導体事業 2024年業界速報」を発表いたしました。
調査の背景
2023年に発売されたファーウェイのスマートフォン「Mate 60 Pro」には、中国企業の中芯国際集成電路製造(以下、SMIC)の開発した業界最先端のプロセッサーが搭載され、その技術力の高さが世界の注目を集めました。昨今、半導体事業で存在感を高めている中国に対して、アメリカ政府は、最先端半導体の軍事利用の危険性を恐れて2022年から半導体の輸出規制を行い、米中対立が高まっています。
今回は、技術的・政治的観点から動向が注目されている中国国内の半導体事業について現況を調査しました。
「中国半導体事業 業界速報」サマリー
●日本の半導体製造設備の輸出先として中国が全体の半分近くを占めていることや、日本の半導体関連企業が中国に進出していることから、中国半導体事業の動向が日本企業へ及ぼす影響は少なくありません。
●中国政府は、2015年7月発表の「中国製造2025」において、半導体の自給率を2020年に49%、2030年に75%に引き上げる計画を策定しました。計画達成に向けた半導体開発支援の強化策として、2014年秋に「国家集積回路産業投資基金」を設立し、のべ3500億元以上の投資が行われています。
●2021年から2022年にかけ、半導体製造装置に関しては自給率35%に達している一方で、集積回路自給率は16.7%にとどまっています。集積回路自給率の未達要因として、需要の増加速度に対して、国内供給企業の成長速度が追い付いていないことが挙げられます。
●今後も中国政府を中心とした半導体事業への積極投資が見込まれ、中国国内の自給率推移に注視が必要です。
▼本調査は、以下サイトよりご覧いただけます。
https://www.riskmonster.co.jp/study/research/
調査結果
(1)中国への半導体輸出規制措置と日本への影響
アメリカ政府は、2022年10月に半導体および半導体製造装置の中国への輸出制限措置を発表し、その後も対象品目を拡大するなど、規制を強化しています。(表1)さらに、日本・オランダ・ドイツ・韓国を含む同盟国に対しても規制への同調を求め、日本政府はアメリカ政府の要請に応じて、2023年に先端半導体の製造装置などの23品目を輸出管理の規制対象に加えました。
しかしながら、日本の半導体製造設備の輸出先としては、中国(48.5%)が全体の半分近くを占めており、加えて、日本の半導体関連企業らが中国に進出していることも合わせて考慮すると、今後も規制強化が続く場合には、それらに関係する日本企業への影響が懸念されます。(図1)(表2)
(2)中国の半導体事業の状況
中国政府は、2015年7月発表の「中国製造2025(中国国内の製造業に対する10年間の政策方針)」の内容を踏まえて、半導体の自給率を2020年に49%、2030年に75%に引き上げる計画を策定し、計画達成に向けた半導体開発支援の強化策として、2014年秋に「国家集積回路産業投資基金」を設立しました。
「国家集積回路産業投資基金」は、過去2回(2014年に第一弾として投資規模1,387億元、2019年に第二弾として投資規模2,000億元超)にわたって半導体産業への大規模な投資を行い、2023年10月に第二弾の一環として実施された中国国内半導体メモリー企業への145億6,000万元(2,912億円 1元=20円)の巨額出資は話題となりました。
半導体事業への継続的な大規模投資の結果、半導体製造装置に関しては、北方華創科技集団(NAURA Technology Group)、中微半導体設備(AMEC)など、中国メーカーの生産・技術力が向上し、2022年には国産化率が35.0%(前年比+14%)に達しています。
また、冒頭で紹介したSMIC以外にも、売上高100億元を超える半導体メーカーの中には2000年以降に設立した企業も存在しており、中国政府の投資による恩恵が事業拡大につながったと考えられます。(表3)
2023年7月~9月における半導体スタートアップへの投資額では、全世界の60%を中国が占めており、今後も「国家集積回路産業投資基金」による第三弾の投資など、中国政府の積極的な半導体事業への投資実施が予想されます。
このような国家的な半導体事業推進によって、半導体製造装置などは国産メーカーのシェア拡大が確認されています。一方で、集積回路においては、2023年時点で輸入量が輸出量の2倍に近い水準となっており、いまだ半導体の供給を輸入に頼っている状況がうかがえます。(図2)
また、市場調査会社IC Insightsが2022年5月に発表した記事によると、中国における集積回路の売上額は成長基調にあり、2021年には2010年の約2.5倍となった一方で、国内生産額の成長速度は売上額に比べて遅く、国内自給率は停滞しています。(図3)
2021年時点では、中国における集積回路の売上額1,870億ドルのうち、国内生産額は312億ドルであり、そのうち、中国メーカーの生産額(123億ドル)は売上額に対してわずか6.6%となっています。それ以外は、中国に製造工場を持つ外資系企業(TSMC、SKハイニックス、サムスン、インテル、UMCなど)の生産によるものです。(図4)
「中国製造2025」を受けて、2020年に集積回路の自給率を49%達成するという目標を設定した中国政府でしたが、2021年時点での集積回路自給率は16.7%にとどまり、外資系企業を除いた中国メーカーのみの自給率に至っては6.6%と、目標値から大きく未達となっています。目標未達の要因としては、著しく速い半導体需要の増加速度に対して、国内メーカーの技術面など、供給の成長速度が追い付いていないことが挙げられます。
アメリカ政府による半導体輸出規制措置を受け、中国国内の半導体自給率問題はより切実な問題となっているため、中国政府による半導体事業への積極投資によって、今後中国の半導体メーカーがどれほど成長していくのか、注目が集まっています。
まとめ
中国は、半導体技術をはじめとして、EV技術・風力発電などの最先端科学の技術力を高めることで、世界での影響力を強めています。アメリカによる経済的規制により、半導体材料や半導体製造装置などの輸入が難しくなり、中国の半導体事業者は苦境に立たされていますが、それが逆に中国政府による半導体事業への積極投資につながっており、国産化が進む契機となっています。
世界最大の半導体市場となっている中国は、日本にとっても最大の半導体製造装置輸出国であり、中国に進出する日系企業も少なくありません。しかし、中国の半導体をめぐる米中対立の構造には、日本も大きく関わっているため、中国での事業展開を検討する際には、カントリーリスクを考慮しながら慎重に判断することが肝要といえます。
<参考資料>
・中華人民共和国海関総署
http://www.customs.gov.cn/
・半導体行業観察ICinsights
http://www.semiinsights.com/s/electronic_components/23/45659.shtml
・探迹 (tungee.com)
https://www.tungee.com/support/business-share/detail/63f345df46f94c107e114830.html
・財務省貿易統計
https://www.customs.go.jp/toukei/info/index.htm
▼本調査は、以下サイトよりご覧いただけます。
https://www.riskmonster.co.jp/study/research/
リスモン情報
リスモン調べとは
リスモンが独自に調査するレポートのことです。これまでリスモンでは企業活動関連の調査として他にも「100年後も生き残ると思う日本企業調査」「環境への配慮が感じられる企業調査」や「この企業に勤める人と結婚したいアンケート調査」などを発表しており、今後も「企業活動」に関するさまざまな切り口の調査を実施することで、企業格付の更新に役立てていくとともに、情報発信を行うことで新しい調査ターゲットの創出、新サービスの開発などに取り組んでいます。
掲載サイトはこちら https://www.riskmonster.co.jp/rm-research/
リスモンの概要(東京証券取引所スタンダード市場上場 証券コード:3768)
2000年9月設立。同年12月よりインターネットを活用した与信管理業務のアウトソーシングサービス、ASPクラウドサービス事業を開始しました。以来、法人会員向けビジネスを要として、教育関連事業(定額制の社員研修サービス「サイバックスUniv.」)やビジネスポータルサイト事業(グループウェアサービス等)、BPOサービス事業、海外事業(利墨(上海)商務信息咨詢有限公司)にサービス分野を拡大し、包括的な戦略で事業を展開しております。
リスモングループ法人会員数は、2024年3月末時点で14,007(内、与信管理サービス等7,498、ビジネスポータルサイト等3,074、教育事業等2,964、その他471)となっています。
ホームページ https://www.riskmonster.co.jp/
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