りすもん与信管理講座「決算書を読み解く④~粉飾の手口とその対策」
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りすもん与信管理講座「決算書を読み解く④~粉飾の手口とその対策」
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【1】粉飾の手口を知る
粉飾とは、決算書の作成時に実態と異なる内容に決算書を操作し、社外に虚
偽の報告を行うことです。
粉飾は、大幅減収や赤字転落などの業績悪化により、取引先との取引の縮小
や撤退につながったり、取引金融機関からの追加融資等の資金支援が得られな
くなることで、自社の事業継続に支障を来すことを免れるために行われます。
業績悪化企業が思うような業績の立て直しができず、苦肉の策として粉飾を行
うことが多く、その多くの企業が粉飾による決算の傷跡を修正することができ
ないまま破綻に至っていくことから、粉飾決算を行わざるを得ない企業の危険
度は相応に高いと言えます。
粉飾によく使われる手口としては、以下のようなものが挙げられます。
① 売上や収益を水増しする、架空計上する
粉飾を行う際に最も用いられる方法です。減収基調にある売上高を架空計
上により水増ししたり、他の収益勘定を用いて架空計上したりすることで
売上高や利益が維持または成長しているように見せかけ、業況悪化を隠蔽
します。売上高の架空計上を行う手法としては、帳簿上の辻褄を合わせる
ために同じ金額だけ売掛金などの資産勘定を水増しさせるパターンが最も
頻繁に用いられます。他にも借入金を現金売上に見せかけて架空に計上し
たり、資産評価を不当に水増しして評価益を計上したりするなどの方法が
あります。
② 費用を無計上、過少に計上する
売上高の架空計上に次いで用いられるのが、費用の無計上や過少計上です。
本来費用に計上すべきものを計上しなかったり、実際の金額より少なく計
上したりすることで利益を創出する手法です(下図)。
売上原価は、期首棚卸資産と当期仕入高の合計から期末棚卸資産を差し引
いて計算するため、期末棚卸資産の金額が大きければ大きいほど、売上原
価は小さくなります。そのため、期末棚卸資産の金額を水増しすれば、そ
の分だけ売上原価が小さくなり、利益を過大に計上できます。
在庫の水増しには、前記のように架空の棚卸資産を計上する方法のほかに、
不良在庫を放置して、評価減を見送ることで特別損失の発生を抑え、利益
を創出する方法もあります。
また減価償却を過少に行うことで固定資産を実態より過大な状態で維持す
ることで利益を創出する方法や、計上すべき引当金(貸倒引当金、退職給
与引当金、賞与引当金など)や未払金、未払費用を計上しないことで費用
を低減し、利益を創出する方法、仮払金や前払費用などの勘定科目を使っ
て、費用を資産として計上し、費用計上を次期以降へ繰り延べる方法など
があります。
③子会社を悪用する
調査対象企業に関連会社が存在する場合は、関連会社を活用した粉飾の手
法にも注意を払う必要がります。
具体的には、決算期末に親会社が子会社に押込販売を行うことで、親会社
に見せかけの売上高や未実現利益を計上する手法や親会社の含み益を有す
る固定資産を子会社に売却することで固定資産売却益を計上し、利益を捻
出する手法が挙げられます。
多くの場合、親会社の業績が芳しくないために、その損失を子会社に転嫁
して親会社の業績を良く見せることを目的としているため、損失を転嫁さ
れた子会社の決算書にその結果が表れます。親会社の業績が良くても、子
会社で大幅な赤字が計上されていたり、不透明な固定資産の増加がみられ
る場合には、親子会社間での粉飾に注意する必要があります。また、グル
ープで連結財務諸表を作成している場合は、連結財務諸表を確認し、評価
の材料とします。
【2】大切なのは現場の視点
財務分析は、企業の良し悪しを判断する上で有効な手段ですが、実態を示し
ていない決算書を分析しても正しい判断を行うことはできません。
取引先の決算書を入手できたことに満足せずに、取引先に関する事実関係を
加味することで、決算書が示す取引先の状態と、取引先に実際に発生している
事象の矛盾点を見逃さないことが、粉飾決算を見破るための重要なきっかけと
なります。
粉飾決算を見破るための、取引先における具体的な「兆候」の例を挙げてみ
ましょう。
① これまで決算書を出していたのに、突然拒むようになった。
② 決算書は出してくれるが、内容の説明や追加資料の提出には一切応じない。
③ 決算書の数字は良好なのに、信用調査機関の点数は悪い。
④ 業界の悪評や悪いうわさがある。
これらの兆候のほとんどは、営業担当者が取引先の「現場」に通うことで得
られる定性情報です。これらの定性情報の多くは、現場から直接入手できる内
容であることから、営業担当者は、常に情報収集のアンテナを高く張り、取引
先に異常が発生していないかを感じとれるように努めることが求められます。
粉飾の疑いが出てきた場合は、取引先に訪問し、詳細な調査を実施する必要
があります。一般的には、取引先の経営者にヒアリングをしながら、話の矛盾
を探っていくことになります。また、取引上の力関係で自社が優位な立場の場
合であれば、取引先に総勘定元帳等を提出させ、直接帳簿を調査して粉飾の根
源を確認することが可能となります。