りすもん与信管理講座「与信管理予算策定のポイント その1」
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りすもん与信管理講座「与信管理予算策定のポイント その1」
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会社経営において、投資はできるだけ費用対効果を考慮し、コストは最小限に抑え最大のリターンを得ることが重要課題ですが、これは与信管理においても共通する課題といえます。
与信管理にどれだけのコストをかけるのかは、経営上の重要な決定事項ですが、安定したビジネスの成長につなげるためには、自社の現状を把握し、そのリスクを精査した上で、与信管理業務としてやるべきことを経営者側に明確に伝え、その意思決定に関与または影響を与えることが重要です。
1.まずは自社の現状把握
(1)与信ポートフォリオ分析
どの程度の管理コストをかけるべきかを考えるためには、自社の取引先全体に潜む与信リスクを把握することから始めましょう。
まず取引先に「債権回収の可能性(=倒産リスク)」に基づいた格付を付与し、その結果から【図表1】のように「格付」と「債権額」を付与した表を作成し、取引先の洗い出しを行います。この際、全体分析を行う観点からは、全取引先のリストを作成することが理想的ですが、コストも考慮に入れ、少なくとも全債権額の80%に付与するようにしましょう。
【図表1】取引先リストの格付記載例(単位:千円)
また、厳密な与信額を計るためには、現金、不動産、在庫など担保を取得したり、相殺可能な買掛金を常時保有したりしている場合は、その価値分について債権額から差し引いて実際にリスクにさらされる債権額(エクスポージャー)を記載するとよいでしょう。
取引先の洗い出しが完了したら、次に【図表2】のように格付ごとに取引先数、債権額を集計します。
【図表2】取引先のリスク構成表(単位:千円)
与信リスクは、「引当金(与信リスク)=債権額×格付の想定倒産確率」で算出します。この引当金は、今後1年間でいくらの焦付きが発生するかを予想算出した数字です。何も対策を取らなければこの金額が損失として発生する可能性があるということです。したがって、与信管理の計画策定とは、この数字をいかに低く抑えていくかを計画することになります。
(2)その他の課題の洗い出し
与信リスクの現状分析のほか、自社の与信管理を取り巻く状況を把握し、課題を洗い出します。それには以下の記録類を参考にするとよいでしょう。
① 支払遅延、倒産事故の件数とその報告
② 集中管理先への対応
③ 与信限度の順守状況
④ 規程・マニュアルの運用状況及び問題点
⑤ 与信管理の教育研修の結果
⑥ 事業内容、法規制の変化
2.年間計画を立てる
現状把握ができたら、次に年間計画を立てます。現状発生している、または今後発生する自社ビジネスにおける与信リスクの対処策を経営陣に提案していく気概で策定しましょう。
(1) 目標を設定する
自社の現状と事業戦略をよく理解したうえで、審査部門の組織目標(ゴール)を立てます。組織目標は、抽象的なものではなく、何を達成するのか、何を生み出すのかといった結果や成果物がきちんと特定できるものが望ましいでしょう。
項目としては、
① 引当金の10%減少
② D~F格先の基本契約未締結率10%減少
③ ビジネス実務与信管理検定合格率30%
④ 与信管理マニュアルの改訂
などといったように3~4つ程度の具体的な柱を作るようにします。
(2) 取引先の管理手法を決める
目標が設定できたら、その目標を達成するために与信リスクを具体的に減らしていく手だてを考えることとなります。
全ての取引先に同じ管理手法を取ることはコストや業務の肥大化を招き、現実的ではありません。優先順位をつけ、リスクが高く集中管理すべき先を選別する必要があります。その線引きの基準として、財務体力(自己資本が毀損するリスク)と取引シェア(撤退不可能となるリスク)を勘案して格付ごとに目安のラインを設定することで行います(【図表3】)。
【図表3】取引先管理の目安となるライン設定
どちらかのラインを超えた先は、リスクを減少させる具体的な対策を検討することとなります。たとえば以下のようなものが挙げられます。
① 情報取得の強化
取引先の状況把握を強化することでリスクをミニマイズする。決算書(場合によっては法人税申告書、月次決算書、資金繰り表など)の提出、訪問レポートの提出、信用調書またはよくばりPDFなど、詳細な状況レポートや時系列での分析が可能な情報ツールの取得などが挙げられる。
② 基本契約書の締結
低格付先に対しては、「期限の利益の喪失」など、支払遅延などの問題が発生した場合にすぐに対処が取れるように債権者である自社に有利な条項を盛り込んだ基本契約を締結する。交渉が難航しそうな場合は、注文書などの個別契約に特約を記載する。
③ 担保の取得
資産背景のある代表者一族やグループ会社から連帯保証を取得したり、現金・不動産・有価証券・在庫・売掛金などを担保取得したりすることで万一の際のリスクを減額する。
④ 相殺原資の創出
取引先の商品を購入する(仕入れる)ことで買掛金を保有し、万一の際の相殺原資を作る。契約による担保取得ではないもの、実質的に担保の役目を果たす。
⑤ 第三者保証の活用
保証会社に保証料を支払うことで、取引先に倒産または支払遅延が起きた場合に未回収分を保証会社に請求することができる。実質的な利益率は下がるものの、①~④の方法が取れない取引先については検討の価値あり。
⑥ 商流の変更
取引先に対して直接与信が発生しないよう、商社・代理店経由で販売する、ユーザーに直接販売して手数料を支払うなどの形で取引ルート(商流)を変更することでリスクをなくす。
(3)目標を実現する年間計画を立てる
前項を踏まえ、年間の計画を立てます。人員の工数を踏まえながらも、時期を逸しないよう計画します(【図表4】)。
【図表4】年間計画案
取引先の全体見直しは、3月決算の最新データが出揃う8~10月と予算策定への材料とする2~3月が理想的です。またその結果を受け、リスクが高い先への対処を次の四半期に取るようにします。また与信マインドが浸透するよう、社員研修に関しても積極的に計画に組み込みましょう。
来月は、具体的な予算項目について説明いたします。