与信管理講座「決算書の現況調査法」(第5回)

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        与信管理講座「決算書の現況調査法」 第5回 
      ~支払手形・買掛金、借入金、引当金・保証債務~ 
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 前回までの3回にわたり取引先の決算書、とりわけB/Sの分析をする際に、資産の
科目について妥当性を検証・確認を行い、修正を行う方法について説明致しました。

 しかし、実態を捉えて実質的な純資産を計算するために見るべきポイントは資産
だけにとどまらず、負債も確認していくことが重要です。
負債は計上されているもの全てが存在するものと見なすことで問題ありませんが、
過少計上されている可能性がありますので、必要な場合は加算修正を行います。
 今回は、負債勘定のポイントについて説明します。


12.支払手形・買掛金

① 帳簿突合、残高確認、証憑突合などから支払手形・買掛金勘定残高の実在性を確かめる
 
 注文請書・受領書・請求書などの証憑類、支払実績を確認し、帳簿と合っている
 かを確認します。主要な仕入先は残高確認などを送付して確認することも検討します。

② 手形発行控および関連帳簿との突合、手形用紙の連番チェックなどを行い、
   支払手形勘定残高の網羅性、実在性を確かめる

 支払手形の管理は、手形不渡りになると信用不安が引き起こされたり、場合に
 よっては倒産する可能性がある危険性から、発行側でしっかり管理されている
 のが普通です。支払手形記入帳や手形発行控(手形のミミ)を照合することや
 番号の連続性を確認することによって簿外となっている手形(融通手形等)が
 発見できる用途があります。

③ 裏書手形が注記から漏れていないか確認する

 割引手形と同様に、決算書の注記に記載されるのが普通ですが、記載していない
 場合があります。受取手形勘定の分析を行う中で確認をするようにします。
 裏書手形は支払債務の一種ですので、回転期間等の分析には金額の把握が不可欠です。

④ 借入手形、金融手形、担保差入手形、リース手形、設備購入手形が混入していないか

 通常の支払手形勘定の中に、借入と同種の手形が含まれていないかを確認する
 ことが重要です。これらがある場合は、支払手形ではなく、借入金に振り替えて
 実態修正します。
 
⑤ 直近の仕入高、取引条件との比較分析から簿外手形の有無を確かめる

 資金繰り表や月次P/Lの月次仕入額を調べ、平均の支払サイトを掛け合わせて
 合理的な金額となるかを検討する必要があります。
 「(支払手形+買掛金+裏書手形+工事未払金)÷平均月次仕入高」が業界
 平均や過去決算と比較して長期化または短期化している場合は、注意をする
 必要があります。
 
⑥ 仕入債務に対する差し入れ担保資産の有無、あればその内容を把握する

 担保は金融機関だけでなく、取引をしている仕入先にも提供している可能性が
 あります。担保として差し入れている資産や代表者や第三者の個人保証の有無
 を確認します。


13.借入金

① 残高証明書、または残高確認状との突合、契約書・手形発行控えその他証憑
   との突合を行い借入金勘定残高の網羅性、実在性の検討を行う

 借入金の過少計上を行っている企業の場合、それぞれ借入残高を決算書の残高と
 一致させ、金融機関ごとに決算書を作成して提出していることがあります。
 このため取引金融機関全ての残高証明書の発行・提出を依頼し、税務申告書の
 勘定科目明細に記載されている各金融機関の取引状況と照合・確認する必要が
 あります。残高証明書は、金融機関に手数料を支払えば発行してもらえます。
 通常の場合は決算期末に取得していることが普通です。可能な限り原本で確認
 するようにしましょう。

② 割引手形が注記から漏れていないか確認する

 裏書手形と同様に決算書の注記に記載されるのが普通ですが、記載していない
 場合があります。受取手形勘定の分析を行う中で確認をするようにします。
 割引手形も手形を担保にした有利子負債に変わりありません。借入金の規模を
 把握するためにしっかり確認するようにしましょう。

③ 比較決算書から借入金と支払利息の数値変動、比較分析を行う

 「支払利息割引料÷総借入(割引手形を含む)」が現在の金利水準とかけ離れて
 いる場合、金融機関以外の市中金融業者からの借入や簿外借入が存在する可能性
 を疑う必要があります。P/Lの支払利息割引料とともにチェックを行います。その際、
 実態を正確に把握するため、雑収入や他の販売管理費に金利が含まれていないかを
 チェックしておくことも大切です。

③ 担保として提供している社有および第三者の資産等の状況、第三者の保証を把握する
 
 借入に担保は「付き物」です。無担保で借入ができる額は多くありません。
 担保として差し入れている資産や代表者や第三者の個人保証の有無を確認します。
 また社有や一族の不動産登記簿を確認し、明細書に表示がない金融機関から抵当権
 ・根抵当権の設定がある場合は、簿外債務の存在が疑われます。また資金繰りが
 忙しいにもかかわらず、抵当権・根抵当権の設定金額に比して残高が過少な場合も
 簿外借入の存在を疑う必要があります。

④ 前払利息、未払利息の計算の妥当性を検討する

 これら勘定がある場合は、その金額の妥当性について確認します。特に前払利息に
 関しては、当期の利息に含めるべきではないかの確認を行います。


14.引当金・保証債務

① 業種・業態、就業規則などから判断して、将来の費用・損失が発生する可能性が
   高く引当金として計上すべきものを特定する

 売掛債権の項目でみた貸倒引当金だけでなく、賞与引当金、退職給与引当金、返品
 調整引当金、修繕引当金など、引当が必要な項目があれば修正を行う必要があります。
 取引先の営業内容、就業規則などを確認し、見積もる必要があります。
 また近々で多数の退職者が出ることが見込まれる場合はなども引当を適正に算出する
 必要があります。さらに退職年金財政が破綻した場合は、会社負担となることも
 ありえますので、退職金の支払方法についてはよく確認しておくことが重要です。

② 保証債務について、必要に応じ取締役会議事録により正常な手続や契約の有無を確認する

 契約書、各種議事録などの閲覧、顧問弁護士への紹介などを行い、取引先が行っている
 保証の内容を特定し、将来負担が見込まれる場合は引当を実施する必要があります。
 債務者の債務の内容、その履行状況、他の担保差入状況およびその評価を行います。
 また法人の場合は決算書を入手して財政状態、支払能力等を推定します。業績・財務内容
 の悪い(債務超過など)関係会社や関連取引先の債務を保証している場合は、要注意です。

③ その他偶発債務の可能性はないかを特定する
  係争関係に関わる損害賠償損失、デリバティブ等の減損損失、途中解約・契約解除に
  伴う損失など今後発生する可能性がある損失について把握を行う必要があります。


以上です。これまでの解説に関しては、今月リリースしました財務格付の分析にも反映
 されており、また個々の解説に関しては財務格付つき財務情報シートを取得して頂くと、
 表示されるようになっております。

資産および負債の各勘定を実態修正する方法を解説しました。
 最終回となる次回は、決算書の実態修正の進め方のまとめを解説致します。

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  【著者】リスクモンスター データ工場
  会社の格付データの更新を中心業務として行うことに加え、与信管理サービスの
  企画・開発や、会員企業の与信管理支援コンサルティングサービスの提供まで
  担当する、いわばリスクモンスターの“心臓部”。
  分かりやすく精度の高い情報を、お客様により早くご提供することをモットーにしている。
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