与信管理講座「決算書の現況調査法」(第4回)

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        与信管理講座「決算書の現況調査法」 第4回 
      ~棚卸資産、有価証券・投資有価証券・出資金~ 
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 取引先の決算書、とりわけB/Sの分析をする際には、勘定科目一つ一つについて
 金額の妥当性を確認し、必要であれば金額の修正を行います。その修正をした
 金額について純資産の修正を行い、実質の純資産を計算します。決算書は作ら
 れるものですので、実態に合わせて修正して評価しなければ間違った評価によ
 り、与信判断を狂わせることになります。
 
 
 

8.有形固定資産


 
 ① 不動産の実在を確認する
 
  不動産は、登記事項証明書、権利証の閲覧および帳簿突合などを行い、必要が
  あれば現地視察を行い、勘定残高の実在性を確かめます。登記事項証明書は、
  甲区の所有者が社有となっているかを確認します。
 
 ② 不動産の評価額の妥当性を確認する
 
  不動産は過去に不動産鑑定士による鑑定額がある場合はそれを参考にし、過去
  からの地価の変化に応じて評価を行います。不動産鑑定がない場合、土地につ
  いては登記事項証明書に記載されている面積に路線価、公示価格、標準価格、
  付近の売買額(付近の不動産業者へのヒアリング)などから土地の単価を推定
  して評価します。路線価は7割程度で評価をすることが妥当です。建物につい
  ては、基本的に償却後の価値で算定しますが、賃貸可能物件の場合は賃貸料や
  管理費等が推定できれば収益還元法で評価します。
 
 ③ 動産および建設仮勘定の実在性を確認する

  動産および建設仮勘定は、実地棚卸の立会い、預り証、その他の証憑突合等を
  行い、必要があれば現地視察を行い勘定残高の実在性を確かめます。その際、
  工場などに稼動していない設備等がないかを確認し、資産価値が見込めなけ
  れば減額処理します。また建設仮勘定は本来完成すれば固定資産に振り返るも
  のですので、相当期間が過ぎて滞留している場合は計上の妥当性を疑う必要が
  あります。
 
 ④ 担保権設定資産およびこれに対応する債務を把握する

  不動産であれば登記事項証明書の乙区を確認することで、金融機関や取引先が
  設定している抵当権、根抵当権を確認することができます。対応する債務も併
  せて確認します。また税務署等が税金滞納から差押登記を付けているケースも
  あるため、忘れず確認します。設備などは動産譲渡担保が設定されている可能
  性があるため、ヒアリングにより確認します。また現地確認のときにプレート
  等がかかっていないか注意深く確認しておきます。
 
 ⑤ 簿外となっている資産はないか

  償却済資産や修繕費で処理されている資産等で簿外となっている重要な資産は
  ないかを確認します。あれば評価額を合理的な方法により算定します。
 
⑥ 上記の評価額の妥当性を検討し、評価増減額の算定を行う

  時価、償却額の算定から簿価の妥当性を検討し、含み損益がある場合は評価の
  増減額を行います。その際は、技術革新などによって陳腐化していないかを確
  認します。また売却見込み資産は売却手取額を基礎として算定を行います。
 
 
 

9.無形固定資産・繰延資産


 
 ① 登記・登録した証書、その他必要な証憑類との突合を行い勘定残高の実在
    性を確かめる

  無形固定資産や繰延資産は形をなさないものの、収益貢献が認められるものに
  つき、資産計上し1年以上の期間に亘り利用されるものを言います。無形固定
  資産の代表例としては営業権や特許権、ソフトウェアが挙げられ、繰延資産の
  代表例としては創立費、開業費、研究費、新株発行費があります。
  有形固定資産と違って目に見えないものですので、登記登録した証書、契約書
  等の証憑類の提出を要求し、その実在性を確かめます。
 
 ② 償却方法は妥当か、過年度の償却不足がないか確認する

  有形固定資産と同様に、税務申告書を入手し、その別表16から償却不足がない
  かを確認します。また可能であれば固定資産台帳も入手し、償却がなされてい
  るかを確認します。5年以内の均等償却がなされているのが通例ですので、そ
  の償却期間についても確認します。
 
 ③ 上記の評価額の妥当性を検討し、評価の増減額を修正して修正する

  そもそも実体のないものですので、今後使用見込みのないものや今後の収益に
  寄与しないものなど資産価値のないものは減額して修正します。また償却不足
  や償却されていない場合は減額修正する必要があります。
 
 
 
 10.貸付金その他の金銭債権
 
 ① 残高確認、契約書などの証憑突合、帳簿突合、入金状況などにより勘定残高
    の実在性を確かめる

  関係会社や役員向けの貸付金は、回収可能性について特に問題になりやすいた
  め、注意が必要です。正式な手続により発生したものかを契約書によって確認
  します。また約定どおりの返済がなされているかを確認します。異常に多額の
  返済があった場合は、資金をどのように調達したかについて確認すべきでしょう。
 
 ② 受取利息は契約書にある金額が計上されているか

  貸付金は、関係会社や役員向けのものであっても利息が発生します。その受け
  取り状況を確認します。P/Lの受取利息は妥当な金額かどうかを確認すると同
  時に、B/Sの未収収益に計上されていて未回収となっていないかも確認します。
 
 ③ 貸付先が法人であれば経営内容(決算書等)、または個人であれば資産内容
    を調べ、回収可能性を確認する

  法人の場合は、決算書等を入手し債務超過になっていたり、多額の赤字が継続
  的に計上されていたりする場合は、全額減額処理するべきです。また役員など
  個人向け貸付金のうち、返済意思があるものは資力に応じて回収可能性を評価
  して修正します。
 
 
 
 11.前渡金・仮払金・立替金
 
 ① 証憑突合、帳簿突合などにより勘定残高の実在性を確かめ、評価額の妥当性
    を確認する

  本来経費としてP/Lにおいて処理するべき金額、使途が不明な支出などが計上
  されている可能性があるため、金額が大きい場合は資産性、実在性について
  注目をすべき勘定です。
  前払金については、その仕入先、購入対象商品またはサービス、その受領時
  期を契約書等で確認します。
  またこれらの勘定が実質的に貸付金としての性格を持っているものもあるため、
  10.の貸付金同様、相手方とその信用力、資金使途をヒアリングし、回収可能性
  がないものは修正を行います。


以上です。次回は、負債の部の実態修正について説明します。

 

以上です。次回は、負債の部の実態修正について説明します。

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【著者】リスクモンスター データ工場
会社の格付データの更新を中心業務として行うことに加え、与信管理サービスの
企画・開発や、会員企業の与信管理支援コンサルティングサービスの提供まで
担当する、いわばリスクモンスターの“心臓部”。
分かりやすく精度の高い情報を、お客様により早くご提供することをモットーにしている。
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