与信管理講座「ケースに学ぶ営業担当者の債権管理」(第4回)
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リスクモンスター株式会社 メルマガ事務局
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<CONTENTS>
■与信管理講座「ケースに学ぶ営業担当者の債権管理」(第4回)
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~与信管理講座「ケースに学ぶ営業担当者の債権管理」~
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詳細な事例に基づくケーススタディ形式にて、
取引の過程で営業担当者が注意すべき与信管理上のポイントを解説しております。
第4回 「危険な販売先からの撤退」
1. 取引形態・ルート
今回のケーススタディに登場する各社間の関係・取引形態を図で表しております。
2. 取引経過
①M社は、19XX年設立、量販店向けの中堅アパレル会社で、ティーンズ向け中低級品
を中心に販売活動しており、ビジネス商事は19XO年以来の長いつき合いで、年間約10
億円の販売、M社での仕入シェア約40%とトップの販売先であった。
2006年に500百万円に与信限度を増枠、07~08年の与信限度見直し時にビジネス商事
の売上と比較してビジネス商事の債権比率の高さ(支払サイトが長いのではないか)が
管理部より指摘された。管理部は営業部に対し月次決算の管理と担保の取得を促して
いたが、営業部はそれを実行できずにいた。
②2009年8月に営業部より与信限度600百万円への増枠申請があったことを契機に、
営業部/管理部にてM社経理部長と面談した結果、融手(融通手形※1)と粉飾決算の
可能性が高いことが判明した。
具体的には、以下のような不明点が見られた。
1.M社の売掛金/買掛金が、各々決済条件の口頭説明に比べ多かった/少なかったこと。
2.今回の限度オーバー対策として、M社より仲間のZ社(社長M社出身)を帳合取引※2先
として紹介されたこと。
3.Z社から資料の提出を受けて分析したところ、業績奮わず、決算内容、特に売込債権急増
という不明点があったこと。
4.Z社振出の手形が(融通手形の可能性が疑われる)ラウンド数字ばかりであったこと。
5.Z→M社の年間売上高と対M社債権残額が全くリンクしていなかったこと。
6.M社経理部長が、Z社との取引関係について口を濁していたこと。
ビジネス商事管理部は、上記より「M社は融手及び粉飾に手を染めており、計数面での
書類は全く信憑性が無い。在庫の処分を含め早急に撤退すべき。」と判断し、この旨を営業部
に伝え、在庫の処分を含めた撤退スケジュールを策定することとなった。この段階でのビジネス
商事与信総額は、売込限度600百万円+在庫(契約)残400百万円=1,000百万円であった。
③2009年12月に営業部/管理部で再度会議の結果、M社資金繰りも勘案し、09年10月
入荷分の旧在庫計280百万円は09年度内に引き渡し、それ以降の成約残は在庫期間
最長3ヶ月とした上で2010年6月までに納入することにした。また今後のM社向け新規販売
を中止し、10年6月までに債権残500百万円以内に抑えるという撤退方針を固めた。
在庫納入の3ヶ月前倒しに伴い、10年2月にM社向け債権残は約980百万円のピークを迎えた。
【用語説明】
※1 融通手形(ゆうづうてがた)
商取引の裏付けなしに、金融のために振出される手形で「融手(ゆうて)」ともいい、企業の
資金繰りが非常に逼迫している兆候の一つです。融通手形が存在する理由は、約束手形が
容易に現金化しうるからです。つまり、銀行に新規融資を申し込んでも応じてくれないことが
多いですが、他方手形割引には比較的応じてくれることが多いためです。
融通手形の種類としては、当事者間でお互いに振出し合う交換手形と、当事者の一方だけが
振出す貸手形(借手形)があります。特に交換手形の場合は一方が倒産すると、もう一方は
自己振出手形と相手方から受け取った手形の両方を決済しなければならないダブルパンチを
受けることになり、殆どが連鎖倒産します。額面金額が「¥5,000,000」などと丸い数字で
あったり、これまで把握していた仕入先・取引先でない会社から受け取った手形である場合は
融通手形である可能性が高く、取引先から詳細にヒアリングをする必要があります。
※2 帳合取引(ちょうあいとりひき)
売買の当事者として本来の役割を果たさないにも関わらず、あたかも売主・買主であるかのように
帳簿だけをつける取引です。今回の場合、売り先の与信限度オーバーを回避するために第三者を
介入させる取引となっており、(売主Aと買主Bとの取引にCを介入させるなど)契約書等書類上は
売買取引をとりますが、介入した第三者Cは実際の物流に関与しない場合が殆どですので、あとで
「Bから支払われていないのでAには支払えない」「商品の引渡しを受けていないので支払えない」
「もともと名義貸しなので支払えない」などの抗弁で代金回収に支障を来たすことの多い注意すべき
取引形態と言えます。
3.対応策とその後の顛末
①2009年12月に納入した旧在庫280百万円の決済は2010年5~8月に設定されていたが、
10年5月に入り、M社より1回目の手形ジャンプ要請があった。在庫販売が思うように進まない
ことによる支払猶予要請であり、ある程度は想定済みの要請ではあったが、M社より
集合債権譲渡担保(簿価約10億円)を取得することで承諾した。
手形ジャンプ金額はこまめに返済させるため、差し替えた手形の支払期日を毎月とした。
10年6、7、9月と同様の手形ジャンプの要請があり、ビジネス商事は都度、集合物譲渡担保
(簿価8.8億円)/不動産担保(価値僅少)を取得し対応した。10年10月以降も、2011年
1月まで毎月手形のジャンプ要請があり、毎回小額でも前倒しで支払わせるよう粘り強く
回収交渉を行い、11年1月の再要請時には債権残280百万円まで減少させた。
また、11年1月には上代約90百万円の製品在庫をビジネス商事倉庫へと移動させた。
なお、M社は2010年秋冬物についてはビジネス商事の代わりに総合商社Q社、繊維商社T
商事からの調達に成功し、苦しいながらもビジネス商事への返済を続けていた。
②しかし、暖冬により秋冬物の売上が伸び悩んだことに加え、2011年1月末にM社販売先の
大手ディスカウントストアが倒産、1億円の焦付きが発生したことにより、M社の資金繰りも
いよいよ逼迫、あえなく11年2月に自己破産を申請するに至った。負債総額は約55億円であった。
M社自己破産申請時のビジネス商事債権残は約270百万円。奇しくも2009年12月に
引き取らせた旧在庫280百万円分に相当する金額分の債権が残ったが、これはすなわち
在庫引取をさせなくても行く行くは行き詰っていたであろうことを示しており、ビジネス商事は
M社内容の見極め→早期撤退により、M社の新規仕入先に債権を肩代わりさせて、約980
百万円-約270百万円=約710百万円の損失を回避することとなった。
③その後は担保として取得していた集合債権譲渡担保を実行し、約70百万円の債権が
回収できた。集合物譲渡担保については、M社倒産前にビジネス商事の倉庫に在庫商品の
一部を移管することができたため、留置権を主張して破産管財人による財産保全の網から
逃れることができた。
いずれにせよ、的確に取引撤退を判断した上、手形ジャンプ要請をされた時の基本動作として
最も重要な担保の取得行為が行われた結果、損失発生をできるだけ食い止めたケースである。
4. ポイント
①粉飾決算の疑いある場合は原則撤退方針とすべし!
取引先の決算数字を分析していく内に、数字同士の不釣合いや口頭説明との整合性がとれない
場合がありますが、粉飾か否かを判断するに足りない資料がない場合が殆どです。また、のらり
くらりとした返答しかしない場合が多いでしょう。よって粉飾の疑いがあり、取引先より明確な説明や、
資料が得られない場合は、全ての計数資料の信憑性に疑いがあるということで、原則取引撤退を
前提に進めるべきです。中途半端な説明を信じて与信を行うと、しっぺ返しを食うことになりかね
ません。もし取引先にやましい点が無ければ、態度を明確に示すことで、きちんとした説明が引き
出せるはずです。
②撤退方針先においてこそ、残債権は厳しく取り立てるべし!
取引撤退を判断した場合、取引先は「ビジネス商事が中止したから窮地に追い込まれた。」
といった物言いをする場合がありますが、撤退せざるを得ない状況になったのはあくまでも
取引先の責任であり、厳然たる態度で残債権の回収に臨むべきです。取引先は「どうせ
新規納入の無い先だから。」と撤退後取引がなくなるビジネス商事に対しての支払をルーズ
にしてくる場合もありますが、そういう先に対しては、むしろ取引先のほうから「早くビジネス
商事に弁済して手を切りたい。」と思わせるように、毅然たる態度で粘り強く回収交渉を行う
べきです。
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【著者】リスクモンスター データ工場
会社の格付データの更新を中心業務として行うことに加え、与信管理サービスの
企画・開発や、会員企業の与信管理支援コンサルティングサービスの提供まで
担当する、いわばリスクモンスターの“心臓部”。
分かりやすく精度の高い情報を、お客様により早くご提供することをモットーにしている。
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